婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
元々自分に芸術的センスはないと思っていたが、本当に毛程もないと痛感してしまう。
「かわいいよ。黄色いバラが菜花らしい」
「お色直しのイメージだったんだけど、上手くいかないね」
菜花は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる。
すると紅真は、真っ白いベコニアと赤い千日紅を一輪だけ添えた花を生けた。
「菜花の花に合わせてみた。花嫁に寄り添うようなイメージで」
「えっ、すごい! なんかすごく様になってる!」
菜花のいけた花だけでは少し物足りないような、どこか幼稚な印象を受けるが紅真の花と並ぶと、一瞬にして結婚式が出来上がる。
「やっぱり紅真くんすごい! ものすごくかわいい!」
「菜花の花を際立たせるようにしただけだよ」
「それがすごいの!」
改めて二つの作品を見ながら、紅真と一緒に花をいける日がくるなんて思っていなかったなぁと思った。
ずっと菜花が踏み込んではいけない領域だと思っていたから。
「……ねぇ、菜花。実は話があるんだけど」
急に紅真は改まった表情になった。
「実は、パリで花とファッションのショーをやってみないかと言われていて」
「パリで!?」
紅真は頷く。
どうやらこの前の展示会にパリで活躍する有名デザイナーが訪れていたらしく、紅真の作品を見て是非コラボレーションしたいとのオファーがあったのだそうだ。