婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
「それだけじゃなく、海外でもショーや展示会をやってみたらどうかと言われていて、もちろん今すぐにではないけど挑戦してみたいと思ってる」
紅真の瞳はとても真剣だった。
「海外に日本の生け花、ひいては千寿流の魅力を伝えられる良い機会だと思ってる。まだいつになるかはわからないけど、もしかしたら一年以上向こうにいる可能性もあるんだ」
「そうなんだ。すごいよ、紅真くん! 絶対行った方がいいと思う」
世界でも紅真の花の魅力を伝えられるのなら、こんなに素晴らしいことはない。
紅真が認めてもらえたことが自分のことのように嬉しかった。
「もしそうなったら、菜花にも一緒についてきて欲しい」
紅真は菜花の手を取って真っ直ぐ見つめる。
「菜花が今の仕事を頑張ってるのは知ってる。だけど、菜花と離れたくない。僕の我儘だってわかってるんだけど……」
「うん、わかった」
菜花が即答すると、紅真は驚いて目を見開く。
「その時は仕事辞めて紅真くんについてく」
「いいの……?」
「うん。私ね、今の会社を選んだのは少しでもお花に詳しくなって、紅真くんの力になりたかったからなんだ。そこで頑張って紅真くんの隣に立てる自信が欲しかったの」
だからこそ、迷うことなんてなかった。