婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
嬉しくて思わず涙がこぼれてしまう程だった。
「すごく嬉しい! こんなに素敵な誕生日プレゼント、初めて! ありがとう、紅真くん!」
紅真は昨日のように微笑むことはなく、「喜んでもらえて良かった」と淡々としていた。
それでも菜花は嬉しかった。部屋に飾って何枚も写真を撮り、菜の花は押し花にしてずっと大切にした。
紅真が菜花に花を贈ったことで、両家の両親は正式に婚約させることを決めた。
正直に言って菜花は嬉しさを隠し切れなかった。
(紅真くんとなら、結婚したいかも……)
初めての感情に戸惑いながらも、大切に育んでいきたい気持ちだと思った。
これから少しずつ仲良くなっていけたらいい、そう思っていたのに。
「あの、紅真くん……」
「ああごめん、菜花。もうすぐ個展があるから準備に忙しくて」
「っ、ううん、私こそごめんね」
次期家元である紅真はとにかく忙しい。
高校卒業と同時に家元修行が本格的に始まり、大学の勉強と両立させながら頑張っていた。
尚且つフラワーデザイナーの資格取得に向けての勉強もしていた。
生け花という世界だけにハマらず、幅広く柔軟に花の魅力を伝えていける作品が創りたい。
それが紅真の目指すべき道だった。
そして知れば知るほど、紅真は選ばれた才能を持つ特別な人なのだと理解する。
同じ高校生が生けた花と紅真が生けた花とでは、天と地程の差がある。素人目でもその違いは歴然だった。