婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


「キスしていい?」
「えっ、リップ取れちゃうよ」
「本番でもするから大丈夫」


 何が大丈夫なのかよくわからなかったが、顔を寄せられて静かに目を閉じた。
 誓いのキスより先に触れるだけのキスを交わす。


「僕の奥さんになってくれてありがとう」
「こちらこそ、奥さんにしてくれてありがとう」


 二人は微笑み合い、もう一度だけ唇を重ねた。

 きっかけは親同士が決めた政略結婚だった。
 でも二人の間に芽吹いた恋のつぼみは、着実に大きく成長し愛の花を咲かせた。
 きっとこの花は永遠に枯れることはない。


「そろそろ行こうか」
「うんっ」


 菜花は紅真の腕に自分の腕を絡ませ、控室から出た。

 二人で扉の前に立ち、軽く深呼吸する。いよいよなんだなぁと思った。


「……祖母にも見せたかったな」


 不意に紅真がぽつりと寂しそうに呟いた。


「僕の名前は千日紅から取られたんだけど、昔祖母が言っていたんだ。千日咲き続けると言われることから、花言葉は『永遠の恋』や『色褪せない愛』だって」
「素敵だね」
「今目の前にいる人が永遠に愛したい人だって、祖母に教えてあげたかった」
「きっと見守ってくれてるよ、空の上から」


 菜花がそう言うと、紅真は優しく微笑んだ。
 この人に恋してよかったと思った。

 彼の純粋さとひたむきさ、そして愛情深さ故に彼のいける花には心に響く温かさがある。
 まるで彼の心をそのまま映したかのように。

 この先もずっと紅真の隣にいられることが、どんなに幸せか。菜花は改めて喜びと幸せを噛み締めた。

 これからも二人の愛は色褪せることなく、永遠に続いていくのだろう。
 夫婦は手を取り合い、大切な人たちが待つ扉の向こうの眩い世界へと歩み出した。


 fin.

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