婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
だけど紅真は、菜花に興味を示すことはなかった。
月に一度は会っているけれど、大人になるにつれてどんどん形式的になっていく。
基本的に紅真は無口なため、「最近どう?」と尋ねても「いつも通り」としか返さない。
笑顔を見たのなんて初めて会ったあの日だけだ。
それでも菜花の誕生日には欠かさず花を贈ってくれた。
生け花だけでなく、ブーケを作ってくれたこともある。
必ず菜の花が主役となっていた。
菜花を思って贈られる生け花もブーケも、とても嬉しかった。
だけど段々と形式的なものに変わってゆく。
生粋の芸術家気質とでも言うべきか、紅真は花以外のことに関心がない。
紅真にとってこの関係は、華道を続ける上で必要な過程に過ぎないのだ。
菜花自身には興味がない。
毎年の誕生日プレゼントは義務感で贈っているものなのだろう。
(虚しいな……)
ふとした時に思う、自分は今まで何のために頑張っていたのだろうと。
どんなに努力しようと、紅真が振り向いてくれることはないのに。
「……ちゃん、菜花ちゃん!」
声をかけられてハッとした。
菜花を呼んでいたのは紅真の妹、蘭だった。
「ぼうっとしてるけど大丈夫? もうすぐ兄さんのショー始まるけれど」
「蘭ちゃん……ごめんね、ちょっと考え事してた」