婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 だけど紅真は、菜花に興味を示すことはなかった。
 月に一度は会っているけれど、大人になるにつれてどんどん形式的になっていく。

 基本的に紅真は無口なため、「最近どう?」と尋ねても「いつも通り」としか返さない。
 笑顔を見たのなんて初めて会ったあの日だけだ。

 それでも菜花の誕生日には欠かさず花を贈ってくれた。
 生け花だけでなく、ブーケを作ってくれたこともある。
 必ず菜の花が主役となっていた。

 菜花を思って贈られる生け花もブーケも、とても嬉しかった。
 だけど段々と形式的なものに変わってゆく。

 生粋の芸術家気質とでも言うべきか、紅真は花以外のことに関心がない。
 紅真にとってこの関係は、華道を続ける上で必要な過程に過ぎないのだ。

 菜花自身には興味がない。
 毎年の誕生日プレゼントは義務感で贈っているものなのだろう。


(虚しいな……)


 ふとした時に思う、自分は今まで何のために頑張っていたのだろうと。
 どんなに努力しようと、紅真が振り向いてくれることはないのに。


「……ちゃん、菜花ちゃん!」


 声をかけられてハッとした。
 菜花を呼んでいたのは紅真の妹、(らん)だった。


「ぼうっとしてるけど大丈夫? もうすぐ兄さんのショー始まるけれど」
「蘭ちゃん……ごめんね、ちょっと考え事してた」

< 17 / 153 >

この作品をシェア

pagetop