婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
線の細いしなやかな美しさはそのままに、年々男の色気がプラスされる。
地毛なのに色素の薄い柔らかな髪。相変わらず長いまつ毛に薄茶の瞳はまるでビー玉のよう。
こんなにも美人なのに、着物を捲り上げて覗く腕はたくましい男性のものだ。薄青の浮き出た血管が、何とも言えない色気を醸し出している。
黄色い歓声が上がる程熱烈な女性ファンが多いし、「美しすぎる天才華道家」としてメディアに取り上げられたこともある。
遠いな、と菜花は思った。
紅真との距離が近いと感じたことはない。
いつも菜花は紅真のことを遠くから見つめている。
音楽とともにライブパフォーマンスが始まった。
主役となる花は胡蝶蘭のようだ。大振りで見事な白い胡蝶蘭が一つ、また一つと増える度に壮大な迫力になる。
その周りを彩るのはピンク色のオンシジューム、白いアンスリウムといった花々だ。
紅真の指先はまるで魔法のよう。
みるみるうちに優美さと迫力のある生け花が出来上がる。
花を生けている時の紅真はいつにも増してカッコいい。
気付いたら目が離せなくなっていて、ずっと心臓が小刻みに鼓動する。
なのにどうしてだろう、心がきゅうっと苦しくなって泣きたくなるのは。
盛大な拍手と歓声に包まれる中、菜花の周囲だけ閉ざされたようだった。
インタビュアーが紅真にマイクを向け、紅真はそれに対して応えているが菜花の耳には届かない。