婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
雛乃は紅真とのことは全部知っている。
菜花がずっと紅真が好きなことも含めて、全部だ。
「誕生日の夜にデートに誘われたかもしれない」と話してから、雛乃はずっとニヤニヤしている。
でも、雛乃が期待しているようなことはきっと起こらない。
「あのね雛乃、雛乃に聞いて欲しいことがあって」
「うん?」
「私、もうやめようと思ってるの」
「やめる?」
「紅真くんを好きでいるの」
雛乃は何度も瞬きした後、肩をすくめた。
「ああ、いつものやつね」
スン、と真顔になる雛乃。
「菜花の拗らせ片想い」
「違う! 今回は本気なの!」
「そう言って結局やめられなかったの何回あったっけ?」
「うっ」
雛乃は呆れながら頬杖をつく。
「今までも紅真くんなんてもう知らない! なんて言いながらその翌日にはやっぱり好き!って言うし、誕生日の花だってぶつくさ言いながら嬉しいの隠し切れてなくて、結局毎回ロック画面にしてるじゃない」
「うっ」
「それを何年も見せられてきたのに、信じられると思う?」
「今までは何だかんだやめられなかったけど、今回は本気だから」
「じゃあ、菜花の決意を聞こうじゃない」
そう言われて菜花は両手を膝に置き、背筋を伸ばした。
「紅真くんとの婚約を破棄する。紅真くんと一緒にいられるなら、今のままでもいいって思ったこともあった。でもやっぱり……好きなんだもん。好きな人にも好きって思ってもらいたいから」