婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 紅真の一番はどうしたって変わらない。きっとこの先もずっと華道以上に大切なものはない。
 それでいい、千寿紅真とはそういう人物なのだ。


「紅真くんはお花にしか興味ないけどそれでいい、って思っちゃったの。私は紅真くんのそういうところも好きになったから。紅真くんの邪魔したくないし、このまま結婚してもお互いのためにならないって思った。何より私は、今の関係じゃ満足できない……」


 一緒にいられたらそれで幸せなんて、そんなの綺麗事。本音は近づきたい、振り向いて欲しい。
 親に決められた婚約者では満足できないのだ。


「だから私、紅真くんから卒業する。私は私のために幸せになるんだ」
「菜花……よく言った!」


 雛乃はパチパチと菜花に向かって拍手を送る。


「よく決断したね、偉い。そうだよ、菜花の人生なんだから菜花が決めていいんだよ」
「雛乃……」
「ねぇ菜花、覚えてる?私たちが仲良くなった時のこと」
「うん、覚えてるよ」


 菜花は中学の頃から所謂お嬢様学校と言われる女子校に通っていた。クラスメイトは社長令嬢や医者の娘などお嬢様育ちな子ばかりで、菜花はあまり馴染めなかった。

 自分も春海グループの娘ではあるのだが、「休日はハワイで過ごした」、「パパにブランドバッグを買ってもらった」というセレブな会話に全くついていけなかったのだ。
 親の金で遊んでいるのに、どうしてマウントを取りたがるのだろうと不思議で仕方なかった。

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