婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
翌日、菜花は本当にお弁当を作ってきた。
とは言え自分で料理なんてしたことのない菜花は、卵焼きすら上手く作れず真っ黒に焦がしてしまった。
初めて握ったおにぎりは、爆弾のように丸々していた。
それを見た雛乃は驚く。
「本当に作ったの?」
「うん、でも芥子田さんみたく上手く作れなかった」
「なんで? あなたならお手伝いさんとかに作ってもらえるんじゃないの?」
「そうだけど、自分でやりたかったの。自分のことは自分でやる芥子田さんがカッコいいなぁと思ったから」
雛乃は何度も瞬きして、菜花のことを見つめていた。
「……卵焼きの作り方、教えようか?」
「本当に!? 嬉しい!」
それから二人は一緒に卵焼きを作るようになり、自然と会話が増えていつの間にか仲良くなっていた。
雛乃は母子家庭であり、まだ小学生の弟と妹がいるのだそうだ。仕事が忙しい母に代わって家事をこなし、毎朝母と自分の分のお弁当を作っている。
この高校に特待生として入ったのも母に苦労をかけないためで、将来は弁護士を目指しているのだという。
「お母さんがすごく苦労してるから、少しでも楽をさせてあげたいんだ」
菜花は感激した。
当たり前のように与えられるものだと思っているクラスメイトたちとは違い、少しでも家族を支えようと努力する雛乃が眩しく見えた。