婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 菜花が親に頼ることなく自力で稼ぎたいと思うようになったのは、雛乃の存在も大きかった。


「高校の時さ、めんどくさい連中に目付けられたことあったじゃない? 貧乏人のくせに菜花に取り入ってコネ作ろうとしてるとか言われて」
「あったね」


 一般家庭出身で特待生、そして菜花以外とは馴れ合おうとしない雛乃は色んな意味で浮いていた。
 それを良く思わない連中もいて、「貧乏人のくせに」と心ない言葉を浴びせる者もいた。


「あの時菜花が飛んできてものすごい剣幕で怒ってくれた時、嬉しかったけど同時に反省もした」
「反省?」
「あの人たちが私を貧乏人って見下してたように、私も彼女たちを見下してた。何の苦労も知らず親のスネかじって良い思いしてるって。でも、菜花は違う。きちんとその人の本質を見ようとしてる。菜花のそういうところ、本当に尊敬してるし大好きだって思ってるよ」
「雛乃……」


 面と向かって言われると照れ臭い。
 ただ雛乃を馬鹿にする人たちが許せなかっただけだ。

 誰よりも努力している人のことを馬鹿にする権利などない。
 そもそも貧乏だろうが金持ちだろうが関係ない。


「まあだから、何が言いたいかと言うとね、菜花には幸せになって欲しい。菜花が笑顔でいられるなら、私はそれが一番いいと思う」
「雛乃……!」
「帰って来たら話は全部聞くからさ」

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