婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
思わずうるっとしてしまいそうになった。やっぱり持つべきは大切な親友だと思った。
「ありがとう、雛乃」
「菜花の愚痴聞けなくなるのはちょっと残念だけどね。めっちゃ愚痴るくせに好き好きオーラ隠せてないの面白かった」
「えっ!? そんなの出てた!?」
「めっちゃ出てたよ。菜花って気強いところあるのに、婚約者のことになると臆病になるよね」
「……からかってる?」
「かわいいって意味だよ」
そう言ってケラケラ笑う雛乃はどう見ても面白がっており、菜花はむうっと頬を膨らませる。
「てか真面目な話だけど、婚約破棄ってそう簡単にできるの? 菜花たちの婚約って政略なんでしょ?」
「それは……多分両親は簡単には許さないと思うけど、お姉ちゃんがいるし」
「お姉さんって彼氏について留学したんじゃなかった?」
「それが……破局して帰って来たんだよね」
「えっ、そうなの!?」
姉の紫陽は恋人のアメリカ留学について行き、そのまま結婚するのかと思いきや破局して最近帰国してきた。
好きになるととことんのめり込むくせに、一度冷めるとあっさりしているのは昔から変わらない。
「多分だけどお姉ちゃん、私が結婚しないって言ったら紅真くんと結婚するって言うと思う」
「でも、元々はお姉さんが断って菜花に回ってきたんじゃないの?」
「そうなんだけど、一回だけ言われたことがあるんだよね」