婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
赤瀬花き株式会社。
花卸し事業から始め、現在は花卉の生産者と花屋の間に立つ物流業を主に行っている業界では大手の企業である。
花卉とは観賞用に栽培される草花や花木の総称だ。
花卉に対する独自のノウハウを駆使し、最近立ち上がったのがお花のサブスクサービスだった。
お花のサブスク自体は元々あったサービスではあるが、様々な生産者や花屋とのネットワークを持つ赤瀬花きだからこそ提供できるサービスがあるとされ、一年前に立ち上がった。
菜花はそのメンバーに選ばれ、去年から企画部として頑張っている。
メンバーに選ばれた時はまさか自分が、と驚きを隠せなかったが、今ではとても充実していた。
(よし、大体できた。ちょっとコーヒーでも買ってこようかな)
自分へのご褒美にオフィスタワーの一階に入っているコーヒーショップまで買いに行ってもいいな、と思った。
こういう時こそ自分を甘やかすことも必要なのだ。
何を頼もうかなぁ、とルンルンしながら廊下に出ようとして誰かとぶつかりそうになった。
「おっと」
「あっすみません……って赤瀬部長!」
「ああ、春海か」
ぶつかりそうになった相手は、企画部部長の赤瀬耀司だった。
苗字からわかる通り、社長子息で将来の社長と言われている。
三十歳にして部長という立場にある正真正銘のエリートだった。