婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
そう言って差し出されたのは、菜の花のミニブーケだった。
黄色い花弁がひしめき合い、甘い香りが菜花を誘う。
菜の花のブーケは何度もらっても心が踊る。
「ありがとう」
「じゃあ、行こうか」
菜花はブーケを持ったまま、助手席に座る。
シートベルトを締める紅真を横目で見ながら、小さく溜息をつく。
(いつもより頑張ってみたんだけど、紅真くん無反応だな……)
このブーケは嬉しいけど、何か一言くらい欲しかった。
やはり自分には無関心だということだ。ズキリと痛む心を誤魔化し、平静を装って紅真に尋ねる。
「どこに行くの?」
「六本木にあるスカイラウンジ」
「あそこって会員制でなかなか予約取れないんじゃ?」
「オープン記念の花を担当した縁で使わせてもらえることになったんだよ」
そのスカイラウンジは今年オープンしたばかりで、完全会員制でプライベートな空間で高級フレンチとワインが楽しめる。
四十階という高層ビルの中にあり、絶景の夜景を独占できるのだ。
オープンしたばかりの時はお昼の情報番組でも取り上げられ、非日常が楽しめると話題になっていた。
「千寿様、ようこそおいでくださいました」
完全個室で部屋毎に専任のウェイターが就いてくれる。提供してくれるサービスも超一流だ。