婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
「わあ、すごく綺麗……!」
四十階から覗く東京の夜は小さな星々が地上を照らしていた。
一面ガラス張りになっている窓は、余すことなく美しい夜景を一望できる。
しばらくは夜景に見惚れてしまった。
最後の夜にピッタリな光景だな、と思いながら。
「菜花、乾杯しようか」
「えっ……車なのに?」
「僕は運転しないから大丈夫」
迎えを頼んでいるということなのかな、と思って注がれたシャンパングラスを手に取った。
「乾杯」とグラスを重ね合わせる。カチン、と軽快な音が響くとともに、最後のディナーデートが始まる。
最後と決めていたからか緊張していたものの、夢を見ているような空間、美味しい料理とワインに自然とリラックスできていた。
完全個室というのも安心する。そこはまるでホテルのスイートルームのようで、真紅のソファに座って夜景を眺めることもできる。
「菜花は、仕事どう?」
珍しく紅真から話を振ってくれた。
「楽しいよ。今お花のサブスクサービス立ち上げに向けて動いてるの」
「最近人気らしいね」
「そう、この前私の企画が採用されたの。だから尚更頑張らなきゃって思ってて」
「菜花は、仕事が好き?」
「え、うん……」
今まで紅真がこんな風に尋ねてきたことはなかった。
どういう意味だろうと気になるも、無表情すぎてわからない。