婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
きっと理由は聞かれるだろうと思っていたから、前もって準備していた。
本音ではないが、嘘はついていない。
「十六の時に婚約して、それから十年でしょ? 紅真くんとの時間が無駄だったなんて言うつもりはないけど、やっぱりちゃんと恋愛して結婚がしたい」
本音はその相手が紅真でいて欲しかった。
「それにね、さっきも言ったけど仕事が今楽しいんだ。もっと色んなことが学びたいし、挑戦してみたいの。きっと私じゃ、千寿家の妻としての役目は果たせないと思う」
「……」
紅真はずっと押し黙っていた。
「だから、ごめんなさい。全部私の我儘なんです」
菜花は深々と頭を下げた。
こんなに素敵なバースデーサプライズをしてもらっておきながら、なんて自分勝手で最低なのだろうと思った。
軽蔑されても仕方ない。いっそ嫌われても構わない。
むしろそれくらいじゃないと、菜花はこの恋から卒業できないと思った。
恋愛して結婚がしたいなんて言ったけれど、すぐには次の恋愛になんていけない。
十年もずっと紅真だけを想い続け、紅真以上に素敵な男性になど巡り逢えたことがないのだから。
紅真が何を思っているかはわからない。
だが何だかんだで昔から優しく、菜花の気持ちを尊重してくれていた。
紅真にとっては何でもないことかもしれないし、きっと受け入れてくれるだろうと思っていた。
「……嫌だ」