婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


「予定を変更しよう。本当は部屋を取っていたけど」
「えっ、泊まるつもりだったの!?」
「うん。僕はお酒を飲んでしまったからこのまま泊まるけど、菜花は帰る?」
「えっと……」


 もしかして紅真は、一緒に泊まろうとしていたのだろうか?
 彼らしくない行動の連続で追いつかない。


「あの、部屋って……?」
「このスカイラウンジはホテルも入ってるからスイートルームを予約してたんだ」


 いくら紅真でも一人きりでスイートルームは予約しない。それはつまり、菜花も一緒にと考えていたということだろう。
 菜花の頬が一気に熱くなった。


「タクシー呼ぶから大丈夫だよ」
「あ、ありがとう……」


 きっと紅真は菜花のためを思って色々考えてくれていた。
 会員制のスカイラウンジを予約してくれて、夜景ディナーは最高にロマンチックだった。
 あの生け花は菜花のためだけに生けてくれた特別な作品だ。忙しい合間を縫って時間を作り、沢山準備してくれたのだろう。


(それなのに、ここで帰ってもいいのかな……?)


 紅真は菜花を気遣ってくれている。
 菜花と向き合うと言ってくれた気持ちは本当なのだ。


(だけど帰らないで一緒に泊まるということは……この場合どうするのが正解なの!?)


 菜花は一人で悶々としながら、とりあえず残りのワインを喉に流し込む。
 すると急に頭がぼんやりして、足元がふらついてしまった。


「あれ……」
「菜花!?」


 いつもより高いヒールを履いているせいで、そのまま躓いて転びそうになる。紅真が受け止めてくれたかと思うと、ふわりと花の香りがした。

 ああ、紅真の匂いだと思いながら菜花は意識を手放していた。

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