婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


* * *


 翌朝。菜花が目を覚ますと、目の前に豪奢なシャンデリアが見えた。
 見たこともないシャンデリアだと思いながら、身体を起こす。


「あれ、ここは……」
「おはよう、菜花」
「っ!?」


 ベッドの隣にいたのは、寝起きで髪が無造作に乱れた紅真だった。昨日のスーツ姿とは違った色気がある。


「えっ、えっ!?」


 気づけば菜花はワンピースではなく、バスローブを着ていた。着替えた記憶がない菜花は混乱する。


「菜花、昨日のこと覚えてる?」


 聞かれて思い出そうとするが、どうやってスカイラウンジを出たかまるで記憶がない。


「覚えてない……」
「あの後寝ちゃったからホテルに連れて来たんだけど、その……自分で服を脱ぎ出して」
「ええっ!?」
「そのまままた寝ちゃったから、とりあえずバスローブを着せたんだ」


 菜花は恥ずかしくて消えたくなった。まさか紅真の前でそんな醜態を晒していたとは。
 ガバッと布団を頭から被って縮こまる。


「ごめんなさい……」


 恥ずかしすぎて泣きたいし、紅真の顔が見られない。


「いや、僕もごめん。でも綺麗なワンピースがしわになると思って」
「恥ずかしい……消えたい」


 強くないのにワインなんて一気飲みするんじゃなかった。
 化粧も落とさずにきっと酷い顔をしている。何もかもが最悪だった。


「もういや……」

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