婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 菜花は出勤しなければならなかったため、話の途中で家を出なければならなかった。
「続きは夜にしよう」と言われて送り出された。


「いきなり同棲なんて……」
《嫌なの?》
「嫌っていうか……紅真くんがわからない。こんな紅真くん知らなかったから、戸惑うっていうか……」
《あ、ごめん菜花。そろそろ行かなきゃ。またゆっくり聞かせて》
「うん、忙しいのにごめんね」


 雛乃との通話を終え、はあと溜息をつく。
 考えることが山積みだが、自分も切り替えて仕事に集中しようと思った。

 スマホの画面には紅真が贈ってくれたあの生け花が映し出されていた。
 昨夜撮った写真を既にロック画面に設定していた。

 改めてかわいらしさと優美さがある見事な生け花に心が穏やかになる。
 紅真の生ける花はいつもそうだ、何かを心に語りかけてくるように響くものがある。


(紅真くんはどんな気持ちを込めて生けてくれたんだろう……?)


 今までもらった花は全て写真に収めて保存している。
 中には捨てられなくて、ドライフラワーにしたり押し花にしたりもしている。
 今度はプリザーブドフラワーに挑戦してみたいと思っていた。

 プリザーブドフラワーは特殊な液体で生花を加工し保存することで、その美しさを長期間保てるというものだ。
 ドライフラワーとは違い、花そのものの美しさを楽しむことができる。


「フォトフレームに入れるのかわいいな。ヘアアクセサリーにもできるんだ!」
「何を?」

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