婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 話しかけられてハッと振り返ると、隣にいたのはなんと赤瀬だった。


「あ、赤瀬部長!」
「プリザーブドフラワーか。難しそうなものに挑戦するんだな」
「一度やってみたかったんです。部長はやったことありますか?」
「いや俺は全然。ところで春海、千寿さんと知り合いだったんだな」
「えっ!?」


 思わず咽せそうになった。


「千寿さんのパフォーマンスショーに来てただろ。赤い着物を着ていたの、春海じゃないか? マスクをしていたようだけど」
「……」
「実はあの時話しかけようとしたら、千寿さんが先に声をかけていてな。知り合いだったのかと驚いた」


 まさか赤瀬もあのパフォーマンスショーに来ていたとは思わなかった。
 しかも紅真と一緒にいるところを見られていたなんて。


「……部長、くれぐれもご内密にお願いします」


 実は赤瀬は社内で唯一菜花が春海グループの社長令嬢であることを知っている。
 とあるパーティーで偶然鉢合わせたことがきっかけで、直属の上司であることも踏まえて話したのだった。


「実は千寿さんとは家族ぐるみで仲良くさせていただいているんです」
「なるほどな」
「それにしてもよくわかりましたね? いつもとメイク変えてたし、マスクもしてたのに」
「そりゃわかるよ。瞳をキラキラ輝かせていて、かわいかったからな」
「へっ!?」


 突然のかわいい発言に素っ頓狂な声をあげてしまう。
 不意打ちすぎて心臓に悪い。
< 43 / 153 >

この作品をシェア

pagetop