婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 今まで紅真が会社まで迎えに来たことなどなかったので、かなり驚いた。


「紅真くん、急にどうしたの?」
「迎えに来ただけだよ。お父さんが家を見つけてくれて、せっかくだから一緒に見ようと思って」
「待って、同棲って本気なの?」
「うん」


 紅真の瞳に曇り一つない。


「菜花とちゃんと向き合うって言ったから」
「だからってなんで同棲なの?」
「いずれは一緒に住むんだし、早い方がいいと思って。もっと二人の時間を作りたいし、それに――」
「それに?」
「……ごめん、ただ菜花と一緒にいたいだけなんだ」


 紅真は少しだけ照れ臭そうに頬を赤らめた。
 初めて見る紅真の照れた表情に菜花のハートは射抜かれる。


「ごめん、これは僕の意見の押し付けだった。お父さんがすごく乗り気になってくれたから任せてしまったけど、菜花の意見も聞かずに申し訳ない」
「ううん、いいよっ」


 菜花はふるふると首を横に振る。


「うちの父は勝手に舞い上がってるだけだから気にしないで。同棲は嫌じゃないし……きゃっ」


 突然紅真にぎゅうっと抱きしめられた。


「良かった……」
「紅真くん……?」
「菜花に嫌われてなくて」


 紅真はホッとしたように吐息を漏らす。それが菜花の耳にかかってくすぐったい。
 紅真の温もりを直に感じてドキドキしてしまう。


(紅真くんってこんなにストレートだったっけ……?)

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