婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
思わずはしゃいでしまう菜花のことを、紅真はそっと抱き寄せる。
「えっ、どうしたの!?」
「菜花がかわいいから」
「〜〜……っ」
急にスキンシップが過剰になった紅真にまだついていけず、菜花の頬は真っ赤な林檎になる。
「こ、紅真くん、苦しいよっ」
「ああ、ごめん」
本当はもう少し紅真の腕の中に包まれていたい気持ちもあったけれど、心臓が保たない。
こんな風にドキドキさせられる度、紅真の気持ちが自分に向いているのではないかと期待してしまう。
だが、紅真のあまりの豹変ぶりに戸惑いを隠せない気持ちもある。
期待する気持ちはあれど、もう一歩踏み出せずにいるのは紅真から「好き」の二文字を聞いたわけではないからだ。
(いっそ聞いてみちゃう? 私のことどう思ってる? って……)
しかしその時、学生時代の苦い記憶が急にフラッシュバックした。
あれは菜花が中学生の頃、一人の男の子が校門の前で待っていた。女子校の前でわざわざ待っていた彼は、菜花のことを見て「友達になってください!」と少し照れながら、でも真剣な表情でそう言った。
すごく驚いたけれど、「はい」と頷き連絡先を交換した。
そこからしばらくメッセージのやり取りが始まり、その彼との親交を深めていった。
優しい彼に段々と惹かれている自分に気づいた時、こんなメッセージが届いた。