婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
「いいな〜!!」
急に背後から明るい声が聞こえて、思わずびっくりした。
振り返ると、同期入社の山野かすみと菊川諒太だった。
二人とも営業部であり、菜花も入社して配属されたのは営業部だった。
同じ営業部に配属された同期として共に切磋琢磨し、時に笑い合ったり慰め合ったりしている仲だ。
菜花が異動になってからも、月一で飲みに行っている。
「あの赤瀬部長とあんな風に喋れるなんて、菜花が羨ましい」
「もうかすみったら、会えばそればっかりなんだから」
「そりゃそうだよ。赤瀬部長、男の俺から見てもカッコいいもん」
「御曹司なのに鼻にかけないし、下っ端社員にも優しくて仕事できるし、何よりあのルックス! ほんとこの会社入って良かったぁ」
かすみがうっとりするように、赤瀬耀司は彫りが深くて男らしい端正な容姿の持ち主である。
ビシッとスーツを着こなすスタイルは抜群であり、彼が通りすがるだけで女性社員は視線を奪われる。
「まあ確かに優しいけど、意外に意地悪なところもあるよ」
「うわ、何それ!」
「私だけが知ってる赤瀬部長アピールか!? ヤラシ〜!」
「かすみも菊ちゃんもやめてよ」
こういうところが妙に息ピッタリなんだよなぁ、と菜花は苦笑する。
「それより私コーヒー買いに行くところだけど、二人は?」
「あ、そうだ。春海に用があったんだ」
そう言って菊川はスーツのポケットから一枚のチケットを取り出し、菜花に差し出す。