婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
それから同棲を始めるまであっという間だった。
紅真はいつの間にか準備を済ませ、引っ越しの段取りを決めていた。正直なところ、花を生ける姿しか知らなかったので事務的作業を淡々とこなせるとは思っていなかった。
一緒に家具や家電を見に行き、バタバタしながらも引っ越しを完了させた。
「疲れた〜!」
ようやく荷解きが終わり、部屋のあちこちに積み上がっていた段ボールを全て片付けた。
まだ必要最低限のものしか置かれていないけれど、部屋っぽい雰囲気になったと思う。
「お疲れ」
紅真がハーブティーを淹れてくれた。
「ありがとう」と受け取り、ティーカップを口に付ける前にハーブのスパイシーな香りが鼻孔をくすぐる。
それがほっと癒された。
「あーー、やっと終わったね」
「うん、お疲れ」
「紅真くんこそお疲れ様。重いものは全部任せちゃってごめんね」
「当然だと思うけど」
「でも、紅真くんは手を怪我できないのに」
紅真と婚約して間もない頃、母に言われたことがある。
「紅真くんの手は億の価値がある作品を創り上げるのだから、決して手に負担をかけることをさせてはダメよ」と。
だからなるべく重労働になることは自分がやろうと思っていたが、紅真が全部やってくれた。
それも軽々と手際よくこなしてくれるので、内心キュンキュンしていた。