婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


「少しくらい大丈夫だよ。確かに音楽家とかは指を絶対怪我できないって聞くけど、僕はそこまで」
「そうなの?」
「たまに今でも指切っちゃう時あるしね」
「そうなの!?」
「大したことないけどね。それより菜花、この部屋まだ殺風景だと思わない?」


 殺風景と言えば殺風景かもしれない。
 本当に家具も家電も必要最低限のものしかないから。


「これからリビングに飾る花をつくろうと思うんだけど」
「本当に!? 見たい!」
「あと玄関にも」
「見たい! 絶対綺麗だよ!」
「じゃあ始めるね」


 そう言って紅真は買ったばかりのダイニングテーブルに花器と花材を広げる。
 メインとなるのは白いアネモネだった。透明感のある純白なアネモネを中心に、ピンクのアルストロメリア、紫のトルコキキョウ、更に白いバラ、霞草といった花々であっという間にミニブーケが出来上がる。
 それを丸みのある可愛らしい花瓶に挿すだけで、春らしい明るさが生まれる。


「すごくかわいい!」
「これは本当にブーケを花瓶に挿しただけだけど、かわいいよね」
「うん! これだけでお部屋が華やかになるね!」


 リビングの飾り棚の上に花瓶を置くだけで、殺風景な部屋から可愛らしさとエレガンスさのあるリビングへと変わる。


「玄関に飾る花はアレンジメントにしようか」

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