婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


「玄関は初めて目に付く場所だから、オレンジメインで明るい感じにしてみたんだけど、どうかな」
「……」
「菜花?」
「あ、ごめん。あまりにも綺麗すぎて言葉失ってた。やっぱり紅真くんはすごいね。なんか感動しちゃった」
「え、これは結構適当に作った感じなんだけど」
「適当ならもっとすごいよ! こんな綺麗なお花が玄関に飾ってあったら、それだけで一日頑張ろうって思えちゃうよ」


 毎朝この花を見て出勤し、帰宅したらこの花が出迎えてくれるのだと思うだけで、すごく元気がもらえる。
 今日も一日頑張ろう、今日も頑張ったんだなって思わせてくれそうだ。

 紅真の花は、こうした日常にちょっとした彩りを与えてくれる。


「そこが大好きなの!」


 そう言ってからハッとした。
 慌てて真っ赤になりながら付け加える。


「あっ今のは、紅真くんのお花が大好きって意味で……」


 思わずこぼれ出てしまった気持ちが恥ずかしくて、つい誤魔化してしまった。


「――わかってるよ」


 紅真はぎゅっと菜花を抱き寄せる。紅真の体温とお花の香りに包まれ、更に菜花の鼓動が速まっていく。


「わかってるけど、嬉しい。ありがとう」
「っ!」


 最近わかってきたが、紅真は感情が表情に出にくい分行動に表れるらしい。
 特にハグはこれまで何度もされてきた。
 今も嬉しいという気持ちを表現してくれているのだと思うけど、全然慣れそうにない。

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