婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
* * *
同棲生活が本格的にスタートしたものの、その後はすれ違いの生活だった。
四月となり、互いに忙しくなってしまったのだ。
紅真は個展の他にもあるドラマで生け花監修を行うことになり、更に忙しくしている。
同棲を始めたとは思えない程すれ違いの日々が続いていた。
菜花も新年度となり、人事異動による引き継ぎ等でバタバタしている。研修を終えたら来月から新入社員を迎えるため、その準備も整えなければならない。
「まさかこんなにもすれ違うなんて……」
同じ家に帰宅しているはずなのに、ほとんど紅真と顔を合わせていない。
土日祝日休みの菜花と固定休のない紅真で休みが合わないこと、家を出る時間も違うこと、そして何より寝室が別々だというのも要因だろう。
「寝室は別々にしよう。その方が菜花もいいよね?」
家具を買う際、ベッドを選ぶ時に言われて菜花も「そうだね」と笑うしかなかった。
正直なところ、同じベッドで寝ることに対する抵抗がないと言えば嘘になる。
婚約しているとはいえ、付き合ってはいない男女が同じベッドで寝るのは……という思いはあるものの、いざ寝室は別々でと言われると複雑な気持ちになってしまう。
(紅真くんは私のことそういう対象では見れないのかもしれない。ていうか紅真くんって性欲あるのかな?)
こんなことを思っては失礼なのかもしれないが、紅真の生々しい部分はあまり想像できない。
できないけれど、自分が紅真にとってそういう対象にはならないのかと思うと悲しくなってしまう。
(一緒に寝る覚悟ができないくせに勝手に傷付くなんて、めんどくさいな私……)