婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 そんな風に一人で落ち込んだりしながら、仕事に追われる日々を送っていた。
 菜花が企画した推しカラー別のお花のサブスクプランも本格的に始動に向けて動き出しており、花の手配をするなどとにかく忙しい。
 自分が企画したプランが採用される喜びもあるが、同時に責任感も大きい。

 だからこそ仕事中はそれだけに注力できるのだが、帰宅すると広い家はガランとしていて寂しさがある。
 玄関の花とリビングの花はいつの間にか新しいものに変わっていた。

 同棲しているという感覚は初日以降はほとんどない。
 世の同棲しているカップルはどうやって二人の時間を作っているのだろうと思ってしまう。


「はああああああ」
「なんだ、デカい溜息だな」
「! 赤瀬部長!」


 デスクに座りながらついつい漏れ出てしまった溜息を思いっきり聞かれてしまい、慌ててしゃんと背筋を伸ばす。


「す、すみません……」
「いや別にいいんだけど、大丈夫か? 根詰めすぎても良くないぞ」
「大丈夫です」
「そうか、何かあったら相談しろよ」
「ありがとうございます」


 赤瀬のこういう気遣いを見せてくれるところは上司として有難いところだなぁと思う。


「ところで春海、ちょっと別件で話があるんだが今時間あるか?」
「え? あ、はい」
「ちょっとここだと話しにくいんだが……外でもいいか?」
「わかりました」


 別件の話とは何だろうとドキドキしながら赤瀬についていく。
 もしかして何かミスがあったのだろうかと、悪い想像をしてしまう。

< 56 / 153 >

この作品をシェア

pagetop