婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
エレベーターで一階に降りる。一階にはカフェが入っており、赤瀬はそちらへ真っ直ぐ向かっていく。
「コーヒーでいいか?」
「え? えっと、はい」
赤瀬はコーヒーを二つとサンドイッチを頼み、菜花に渡してくれた。
「はい」
「えっ!? あ、お代は」
「いいから。でも他のやつには秘密な」
「あ、ありがとうございます……」
有難くコーヒーとサンドイッチを受け取りながら、おずおずと尋ねる。
「それで部長……話というのは?」
「いや特にないけど」
「えっ!?」
「春海、今日休憩行ってないだろ」
それを言われてびっくりする。菜花の会社では昼休憩を一時間好きな時間帯で取るのだが、今日は昼過ぎになっても行けていなかった。
やることが沢山あるのと、午前中からミーティング続きだったこともあり、休憩に行くタイミングを失ってしまったのだ。
とりあえずゼリー飲料を飲んで何とか凌ごうとしていた。
「三十分でもいいから、少しは休め。疲れてくるとそれだけ集中力も落ちる。休むことも仕事だぞ」
「……すみません」
部長は自分のスケジューリングの甘さを咎めているのだと、反省した。
「説教してるわけじゃないよ。ただこのところの春海、頑張りすぎてると思ってたからな。確かにあの企画はお前が発案したものだけど、チーム全員でブラッシュアップして進めていくものだ。何でも一人で抱え込むなよ」