婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
赤瀬が何故親密そうにしていたと見えたのか不思議だった。
ショーの時に二人で話しているところを見ていたにしても、そんな風に見える程話し込んではいなかったからだ。
「ついでに不満があるなら吐き出さないか? 楽になれるかもしれないぞ」
「でも……」
「俺のことは壁だと思えばいい」
部長のことを壁なんて、と思ったけれどこれが彼なりの気遣いなのだと思うと心に沁みる。
「新年度になったからっていうのもあるんですけど、本当に全然時間が合わなくて。休日も合わないし、本当に一緒に住んでるのかなって不安になるくらいで……それを紛らわせるために必死に仕事してたところはあると思います」
赤瀬は立場上かなり上の人のはずなのに、こんな私的な話をするのはどうかと思う。
だが、仕事に関係ないことでも親身になってくれる。
部下一人一人のことをきちんと見てくれているという信頼感があるからこそ、話せてしまったのだろう。
「そうだったのか」
「仕事とプライベートは分けてるつもりでしたけど、これじゃあ全然分けれてないですよね。すみません」
菜花は深々と頭を下げた。
「もっとちゃんとしますね」
「いや春海の場合、もう少し肩の力を抜いた方がいい。真面目すぎるのは春海の長所ではあるけどな」