婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 何だろうと思いながらそのチケットを見て、菜花は思わず固まった。


「これ……」
「天才華道家、千寿(せんじゅ)紅真(こうま)の華道パフォーマンスショーの優待チケットだよ!」


 菜花は努めて平静を装い、にこやかに尋ねる。


「どうしたの、これ?」
「菊川、最近千寿華道会の担当になったんだよね」
「そうそう。それでこのチケットもらってさ。友達誘ってくださいって言われたから、春海と山野を誘おうと思ったんだよ」
「めっちゃ楽しみ! あの千寿紅真のパフォーマンスが生で見られるなんて! ねぇ、菜花も行くでしょ?」
「……」
「春海? もしかして千寿さんのこと知らないなんて言わないよな?」
「も、もちろん知ってるよ! でも私、この日予定があって……」
「マジかぁ。残念だなぁ」
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」


 本当にごめんと何度も謝り、菜花はかすみと菊川と別れた。
 一階を降りるエレベーターに乗っている間、菜花はブワッと全身から冷や汗が出る。


(まさか、菊ちゃんが千寿華道会の担当になったなんて!)


 エレベーターに乗っている最中、スマホを取り出しある人物にメッセージを送った。何のコーヒーを頼もうかなんて考えている余裕はなかった。


(しかもかすみと菊ちゃんがパフォーマンスショーに行くなんて! やばい……!!)

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