婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


* * *


 その後は気持ちを切り替えて仕事に取り組むことができた。サンドイッチも美味しかったし、良いエネルギーチャージになった。
 そのおかげか順調に進められたし、いつもより早めに退勤することができた。


「ただいま」
「お帰り」
「あれっ、紅真くん!?」


 ただいまとは言ったものの、誰もいないのだろうと思っていたから驚いた。


「帰ってたんだ」
「うん、今日は予定より早く終わったんだ」
「そっか……お疲れ様」


 久しぶりに紅真の顔を見たような気がして、じんわりと心が温かくなる。
 紅真に会えただけでこんなにも嬉しい。


「紅真くん、ご飯食べた? 軽くで良ければご飯作るよ」
「……ねぇ、菜花」
「うん?」
「今日、実は菜花の会社の近くを通ったんだ」
「えっ、そうだったの?」
「近くの会社でフラワーアレンジメントを頼まれて、菜花に会えるかなと思って少しだけ寄ってみたんだけど――一緒にいた男、誰?」
「えっ」


 言われて少し考えた。もし紅真が見かけたとしたら、あのカフェにいた時間だろうか。


「多分上司じゃないかな。今日忙しくてお昼食べれてなくて、見かねた部長が奢ってくれたの」
「そうなんだ」
「すごく良い人なんだよ。部下のことちゃんと見てくれる人ですごく優しくて、気配りができる方なの」
「へえ……」
「あの人が上司で良かったって心から思える人なんだよね。あ、もしかしたら紅真くん、知ってる人かも」
「知ってる人?」
「その人、うちの会社の社長の息子さんだから。赤瀬耀司さんっていうんだけど、会ったことない?」

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