婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
「んっ、ふ……っ」
呼吸の仕方がわからなくてどうしていいかわからず少し口を開けたら、容赦なく舌が侵入してきた。
そのまま深い口付けに翻弄される。
紅真との初めてどころか、これが人生で初めてのキスだった。
初めてなのに、荒々しくて強引で息ができない。
「っ、やめて……!」
何とか両手で紅真の胸元を押し、強引な口付けから逃れた。
「……っ」
菜花の瞳からはボロボロと涙が溢れ出る。
菜花の泣き顔を見て紅真もようやく冷静さを取り戻した。
「菜花……っ」
「っ、紅真くんのばか……!!」
「菜花!!」
紅真を振り払い、菜花は自室に駆け込んだ。
着替えもせずメイクも落とさずにベッドに倒れ込んで突っ伏す。
一度溢れ出た涙はもう止まらなかった。
紅真とのファーストキスはずっと夢見ていた。初めては絶対に紅真に捧げると決めていた。
でもこんな形で奪われるとは思っていなかったし、何より紅真の気持ちがわからない。
何故急にあんなことをしたのかわからなくて、苦しかった。
「うっ、うっ……」
どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。
紅真のことが好きだからこそ、苦しい。
しばらく菜花は子どものように泣きじゃくる。
もう涙が枯れるまで泣き続け、いつの間にか寝落ちてしまっていた。