婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。

想い焦がれる千日紅 Side.Koma



 黄色のグラジオラスに紫色のカタクリ。垂れ下がるカタクリの花を隣で支えるかのようなグラジオラス。
 一見するとシンプルな生け花だが、見る者によっては誤魔化せない。


「カタクリと黄色のグラジオラスって、嫉妬にまみれた花を生けるのね」
「蘭……」
「菜花ちゃんと何かあったの? 兄さん」
「……」
「やっぱり図星か」


 妹の蘭は心底呆れた様子でやれやれという仕草をする。紅真は黙って余った花材を片付けていた。


「嫉妬心を隠そうとしているけれど、全然隠せてないどころかダダもれってところかしら?」
「勝手な解釈しないで欲しいな」
「あら、兄さんって昔から花に出るんだもの」
「……」


 紅真は昔から表情筋が乏しく、感情が表に出づらい。
 しかし蘭曰く花には思いきり表れるらしく、子どもの頃から妹には何でも見抜かれてしまう。


「それで? 菜花ちゃんと何があったの?」
「……菜花を傷付けてしまった」
「その話、詳しく聞かせてもらいたいわね」


 蘭はニッコリと微笑む。
 その笑顔には、「内容によってはただじゃおかない」という明確な圧力が含まれていた。

 蘭は菜花に懐いており、二人きりで遊びに出かける程仲が良い。
 既に菜花を姉だと思って慕っているのだ。

 紅真は最低一発は殴られることを覚悟して昨夜の出来事を話し始めた。
< 64 / 153 >

この作品をシェア

pagetop