婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


「兄さんってそんなに理性が効かない人だったの?」
「……自分でも信じられないんだ」


 気付いたら押し出され、目の前には大粒の涙を流す菜花がいた。
 菜花の泣き顔を見て自分の犯した過ちを強く自覚した。

 菜花を傷付けるつもりはなかった。
 真摯に向き合うと決めたはずなのに、こんな風に傷付けて泣かせてしまった。

 すぐに謝ろうとしたが菜花は部屋にこもってしまい、そのまま出てきてくれることはなかった。
 強い後悔と罪悪感に苛まれ、一刻も早く謝罪をしたかったけれど、今朝早くに菜花は家を出てしまったようだった。


「菜花ちゃんに連絡した?」
「してない」
「なんでしないの!?」
「なんて言えばいいのかわからなくて」
「はあ……ほんっとに兄さんって、花以外のことはダメよね。特に菜花ちゃんのことになると!」


 妹に一刀両断されて何も言い返せない。


「とにかく今すぐに謝って、ちゃんと話して! そんなだから菜花ちゃんに婚約破棄したいって言われるのよ!」
「わかってるよ……全部僕のせいだ」


 何故自分は菜花を傷付けてしまうのだろう。
 誰より大事にしたいと思っているのに。

 菜花以外との結婚なんて考えられない。
 初めて会った十年前のあの日から、ずっと菜花だけを愛しているのに。

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