婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
はっきり言ってどうでも良かった。
今まで花にしか興味がなく、恋愛なんて不要とすら思っていた程だ。結婚なんて尚更興味なかったが、どうせいつかはこうなるのではないかと思っていた。
両親に言われるがまま任せ、見合いの日を迎えた。
見合いが行われる料亭に向かう途中、しぼみかけたガーベラを見つけた。
何だか今の自分のように思い、そのガーベラをそっと手に取った。
(茎を短く切って水を吸いやすくしてやれば、少しは元気になりそうだな)
見合いが始まっても、この湯呑ならちょうどいいかもしれないな、なんて考えていた。
それ程までに興味がなかった紅真に、突如光が差したのは婚約者になるという春海グループの社長令嬢・菜花が「紅真の生けた花を見たい」と言い出してからだった。
たまたま以前この料亭の廊下に飾る花を生けていたから、それを見せることにした。
紅真にとってはつまらない作品だった。
次期家元らしさを求められ、迷走している最中に生けた花だ。
改めて見てもつまらない。何の感情も咲かない。そう思っていたのだが――
「つまらないでしょ?」
「どこが!? ものすごく綺麗でかわいいじゃないですか!」
菜花は溢れんばかりの笑顔で、やや興奮気味だった。
「すごくかわいいです! さりげなくここを通った時、思わず見ちゃうなって思いました。そもそも料亭の廊下に作品が飾られるなんて、普通の高校生には絶対無理ですよ」