婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 紅真は驚いた。ここ最近、誰かに褒めてもらえることなどなかったし、自分でも納得のいく作品ではなかったと思っていた。
 だけど菜花はキラキラと瞳を輝かせ、心から綺麗でかわいいと言ってくれた。


「かわいいなぁ、いいなぁ。私も欲しいなぁ」
「……良かったら、生けてみようか?」
「えっ? あ、いや、そんな……」
「きっと良いものができると思う。良い名前ですよね、菜花」


 菜の花の花言葉は「明るさ」、「快活」、そして「小さな幸せ」という意味がある。
 彼女にピッタリな花だと思った。何故かこの時、彼女のためになら良い作品がつくれると思った。

 あの時見せてくれたような笑顔が見たい。
 菜花の明るい笑顔を思い浮かべて生けた菜の花をメインとした作品は、自分でも満足のいく作品ができた。

 大振りの花を主役にしがちな紅真に、菖蒲が言った言葉を思い出しながら生けた。

「小さな花は一見脇役だと思いがちだけれど、例えばこの菜の花だって主役になれるのよ」

 菜の花を中心に、マリーゴールドやコレオプシスといったイエローの花で統一して仕上げた。


(菜花、喜んでくれるかな……)


 偶然にも見合いの翌日は菜花の誕生日だと聞いた。
 少し緊張しながら、菜花に菜の花の生け花を届けた。


「すごく嬉しい! こんなに素敵な誕生日プレゼント、初めて! ありがとう、紅真くん!」


 菜花は涙を浮かべる程喜んでくれた。
 何度も何度も嬉しそうに生け花を見つめる菜花に、紅真の方が心を動かされた。
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