婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 そして婚約して十年という節目に、菜花にプロポーズをしようと決心する。
 やっと心から菜花を幸せにできるという自信がついた頃だった。

 オープンしたばかりの六本木のスカイラウンジを予約し、蘭に見立ててもらったスーツを着用する。
 基本花にしか興味のない紅真のファッションをプロデュースするのは蘭の仕事だった。

 菜の花のミニブーケの他に、もう一つプレゼントを用意する。
 紅真の菜花への想いを表現した生け花を贈る。プロポーズともなる花の制作は、かなり前から構想を練っていた。
 なるべく豪華で華やかなものにして、菜花を驚かせたいと思った。
 菜の花はもちろんのこと、ガーベラやマーガレット、ハナミズキといった可愛らしい花を選ぶ。

 どれも菜花をイメージした花ばかりだった。
 出来上がった作品を見て、蘭は呆れていた。


「愛が重すぎて引かれるんじゃないの?」


 マーガレットの花言葉は「心に秘めた愛」、黄色のガーベラは「究極の愛」、ハナミズキは「永続性」、「想いを受け取ってください」。それらが菜の花を取り囲むようにあるのだから、確かに重い。
 だがこれがまごうことなき紅真から菜花に向けた想いだった。

 花以外に興味がなく、その花にさえ迷いが生じていた紅真を救ってくれた。
 再び花を生ける楽しさを思い出させてくれたのは菜花だった。菖蒲の言っていた心に花が咲くという瞬間を実感させてくれた。

 誰かのことを心から愛おしく思う気持ちを教えてくれた。

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