婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
生前菖蒲はこうも言っていた。
「紅真の名前はね、千日紅から取ったのよ。千日紅は文字通り千日間咲き続けると言われ、ドライフラワーにしてもずっと綺麗なの。花言葉は『永遠の恋』や『変わらぬ愛』。いつか紅真にもそんな風に思える人ができたら、ずっと大切にしてね」
当時は子どもで祖母の言葉の意味がわからなかったが、今ならわかる。
こんな風に愛を捧げられるのは後にも先にも菜花しかいない。
迎えに行った菜花を見た時、あまりにも綺麗で可愛くて眩暈がしそうになった。
イエローのワンピースがよく似合っており、ヘアスタイルもメイクもいつも以上に可愛かった。
耳には菜の花のピアスが揺れている。
この日のためにおしゃれして来てくれたのかと思うと愛おしくて、その場で抱きしめたい衝動を必死に抑え込んだ。
それから夜景を見ながらディナーを楽しむ。
ワインを飲んで頬が赤らむ菜花がまた可愛い。
そろそろかと頃合いを見て事前に頼んでいたウェイターに耳打ちし、あの生け花を運んでもらった。
菜花がどんな反応をしてくれるのか、見せる直前まで緊張していた。
「綺麗……すごくかわいい」
振り返り、菜花は思わず両手を頬に当てていた。
ゆっくり立ち上がり、生け花に近づいてじっくりと眺める。その瞳は終始キラキラと輝き、笑顔が満開に咲いていた。
(良かった……菜花が喜んでくれて)
紅真はスーツのポケットに忍ばせた小さな箱をぎゅっと握りしめる。