婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


* * *


 それから同棲までこぎ着け、徐々に距離を縮めていきたいと思っていた。
 それなのに、たった一回の失敗でどん底に落ちたような感覚だ。

 紅真は自分がこんなにも嫉妬深い性格だということを嫌でも思い知らされる。
 今まで何もしてこなかった自分を本気で殴りたかった。
 どれだけ親が決めた婚約者という関係に胡坐をかいていたのだろう。

 くよくよしていても仕方ないので、とにかく菜花に謝ろうと思った。


「菜花ごめん、会って話がしたい」


 結局悩み抜いた末にその一言だけを送った。
 会って正直に自分の想いを伝える。

 思えば昔から自分の感情を表に出すのが苦手だった。
 その分自分の感情を花に込めるようになっていた。
 毎年菜花の誕生日に贈る花には自分の愛を込めていたつもりだった。

 それで告白した気になって本人にちゃんと伝えられていなかったなんて、あまりにも愚かすぎる。
 蘭には「婚約破棄されても仕方ない」とバッサリ切られた。

 菜花からの返信を待ちながら、もう一つ花を生けた。
 自分の名前の由来となった千日紅と木蓮、木瓜(ぼけ)の花を使った。

 紅真なりの菜花に対する誠実な想いを表した作品だ。
 千日間咲き続け、ドライフラワーになっても色褪せない千日紅のように、紅真の愛も色褪せず変わらないもの。
 そんな想いを映した生け花だった。
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