婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
通じ合うフリージア
泣きながらいつの間にか寝落ちてしまっていた菜花は、朝起きて自分の顔の酷さに愕然とした。
メイクも落とさずに寝てしまったから最悪だ。
菜花は紅真を起こさないように起き、シャワーを浴びた。
普段よりもスキンケアを念入りに行い、メイクはなるべく薄くして肌に負担をかけないようにした。
出勤時刻にはかなり早かったけど、忍び足で家を出た。
昨日の今日でどうしても紅真と顔を合わせるのがきまずかったからだ。
会社近くのカフェでモーニングを食べながら、菜花は大きな溜息をつく。
菜花の唇には、まだ昨日の余韻が残っている。
吐息ごと奪われるような濃厚な口付けは、思い出すだけで顔が真っ赤になる。
思い返しても紅真らしくなかった。
あんな風に荒々しく唇を奪われるなんて、想像もしていなかった。
がっちりと掴まれた腕は振りほどけなくて、紅真の男らしい一面に今も心臓が高鳴ってしまう。
びっくりしたけど、嫌ではなかった。
だって好きな人とのキスだったから。
でも、紅真の気持ちがわからなくて悲しいのだ。
自分のことをどう思っているのかわからなくて、苦しい。
「はあ……仕事しよ」
いつもより一時間も早く出勤し、PCを立ち上げる。
何かあるとすぐに仕事で紛らわせようとしてしまうなぁと思った。
今が忙しくて良かったと心底思う。
「あれ、早いな」