婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 心底残念がる女子たちが、みんないつもより綺麗に着飾っている。
 改めて赤瀬の人気ぶりを実感した。

 菜花は赤瀬に小声で囁く。


「部長、ありがとうございます」
「何が?」
「飲み会って、ちょっと断りづらかったりもするじゃないですか」
「いつの時代だ? プライベートは各々で楽しめばいい」
「やっぱり赤瀬部長が上司で良かったです」


 菜花は思わず笑顔になっていた。


「春海、」
「はい?」
「……いや、何でもない。ハブられ同士で後日飲むか?」


 おどけたように笑う赤瀬につられて微笑む。


「ハブられじゃないですよ!」
「はははっ」


 どこか構えていた気持ちがスッと軽くなる。
 本当にこの人が上司で良かったと、何度でも思った。

 一つ肩の力が抜けたような気がして、改めて気持ちを引き締め直す。
 申し訳ない気持ちもありながら、みんなが飲み会に向かう中一人で帰宅する。

 自宅に近付くにつれて鼓動が速く、大きくなっていく。


(……よし)


 自宅の前まできてから深呼吸をしてから、ドアを開ける。


「ただいまー……」


 あの後紅真から返信がきていて「待ってる」というメッセージが届いていた。
 恐らく先に帰って待っているということだろうと思うので、ドキドキしながら玄関に入る。


「菜花! お帰り!」
「紅真くん」


 すぐに駆け寄ってきた紅真は、出迎えてくれるなり菜花を腕の中に閉じ込める。

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