婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


「良かった、帰って来てくれて」
「どうして?」
「このまま菜花が帰って来てくれなかったら、どうしようかと思った」


 紅真の切なげな声にきゅうっと胸が締め付けられる。
 菜花は紅真の背中に腕を回した。


「帰って来るよ、ここが家だもん」
「菜花……」


 しばらく抱きしめ合い、お互いの温もりを確かめ合う。
 やがて紅真は菜花の体を離し、慈しむように優しく頬を撫でる。


「昨日は本当にごめん」
「ううん……」
「一方的に嫉妬して菜花を傷付けて……本当に最低だった」


 嫉妬、という言葉にドキンとした。


「紅真くん、嫉妬してたの?」
「……うん」


 叱られた子犬みたいにシュンとする紅真があまりにもかわいくて、キュンとしてしまう。


「赤瀬部長は本当にただの上司だよ。優しくて素敵な人だけど、部下に対してはみんなそうなの。尊敬はしてるけど、そんなんじゃないよ」
「うん……ごめん。自分でもあんな風になるなんて思ってなかったんだ」


 やや頬を赤らめながら、それでも真剣に菜花の目を見て言った。


「菜花、僕の話聞いてくれる?」
「うん……」


 菜花が頷くと、紅真はホッとした表情を見せてもう一度抱きしめてくれた。
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