婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
紅真は菜花の両手を取り、真剣に見つめる。
「あの日からずっと菜花が好きだ」
「う、そ……」
「嘘じゃないよ。誰よりも大事にしたいと思ってる」
「だって、私はずっと……紅真くんは私に興味がないんだと思ってて」
「そう思わせてしまったのは本当に申し訳ない。菜花のために、家元に相応しい華道家にならなきゃってそればっかりになってた。菜花に寂しい思いをさせてごめん」
「私は……」
花を生けている紅真の姿が好きだった。
心に何かを語りかけてくるような、そんな想いの込もった紅真の花が好きだった。
ひたむきに努力し続ける紅真が好きだったけれど、本当はずっと寂しかった。
それでも彼の邪魔をしたくなくて、嫌われたくなくて寂しい気持ちをずっと押し殺していた。
「ずっとさみしかった……っ。私ばっかり寂しくてつらくて、だから終わりにしたかったの……」
「菜花……」
「紅真くんが、好きだから……っ」
「菜花……!」
紅真は涙が溢れる菜花を包み込むように抱きしめる。
「ごめん、ごめんね」
「紅真くん……」
「好きだよ、菜花。菜花だけを愛してる」
「私も……っ」
紅真の腕の中で嗚咽を漏らしながら、強く抱きしめ返す。
「紅真くんが、大好き……っ」
ダムが崩壊したように涙と想いが溢れ出る。
長年すれ違っていた想いがようやく一つになった。
菜花が落ち着くまで、紅真はずっと優しく抱きしめてくれた。