婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
まさか自分に振られるとは思わず、菜花は絶句する。
「ね、良いんじゃないかしら?」
「いやっ、私はっ」
「そうだな、紫陽がダメなら菜花どうだ」
「えっ!」
「会ってみるだけでも良いんじゃない? 菜花」
「そうだな、とりあえず今度会ってみよう!」
「え……」
両親は勝手に盛り上がり、菜花のことは置いてきぼりだった。
両親はいつもこうなのだ、基本的に人の話を聞かない。
特に藤夫など経営のトップとして大丈夫なのかと思うくらい、呑気でゴーイングマイウェイなところがある。
母の都も生粋のお嬢様育ちだからか、おっとりしていてかなり呑気だ。
そしてこの二人のDNAを色濃く受け継いでいるのが、紫陽である。
両親と姉のようにはなりたくない。
菜花は家族を反面教師にして生きてきた。
恵まれた環境に甘えることなく、自分の力で働いて稼ぎたい。物心ついた時からそう決めていた菜花にとって、結婚なんて冗談ではない。
「人の話聞いてよ……!」
菜花の声は届かず、あれよあれよと見合いの話が進んでいた。
着物を着せられ、はるみの中に入っている高級料亭で会うことになった。
ちなみに紫陽はあの後、すぐに付き合っていた彼氏とは別れた。だったら「お姉ちゃんがお見合いしてよ」と縋ったが、紫陽は首を横に振る。
「ダメよぉ。もう新しい彼氏がいるの」
「……」
この時菜花は姉が続かないが彼氏が途切れない、なかなかの恋愛体質であることを知るのだった。