婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 紅真は自らのシャツを脱ぎ捨てた。
 初めて見る彼の裸に思わず釘付けになってしまう。出会った頃は天使のような美少年だったが、今では程よく肉付いた逞しい大人の男なのだと、改めて実感させられる。

 だけど、どこか中性的な美しさを併せ持つ彼の色気に目眩がする程クラクラした。
 今から自分はこの人に抱かれるのだと思うと、心拍数が更に上がっていく。


「菜花」


 素肌と素肌が密着し、何度も繰り返される口付け。
 舌の動きに翻弄されてばかりいたが、次第に自分から絡めにいく程彼を求めていた。

 汗と吐息が混ざり合って溶け、どちらのものなのかわからなくなる。


「菜花、いい?」


 優しく、少し心配そうに菜花を見つめる瞳が愛おしいと思った。
 ずっと菜花を労わるように優しく触れ、気遣ってくれる気持ちが嬉しい。


「きて、紅真くん」


 この先はもう未知の世界だ。何もかもが初めてで、ちゃんと受け入れられるのか不安もある。
 だけど、紅真となら大丈夫だと思わせてくれる。

 ゆっくりと押し進め、やがてひとつになった時思わず涙が溢れてしまった。


「痛い?」


 不安げに菜花の涙を拭う紅真に、菜花はふるふると首を振る。


「すごく幸せ……」
「菜花……」


 口付けを落とされ、また多幸感に浸ってゆく。この日、大好きな人に心も体も愛されるよろこびを知った。
 いつまでもこの温もりに包まれていたいと思いながら、菜花は静かに意識を手放した。
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