婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。

不穏なヒガンバナ



《おめでとう、菜花! 良かったじゃない》
「ありがとう、雛乃」
《まあ、同棲するって聞いた時からこうなるんじゃないかと思ってたけどね》


 雛乃にこれまでの出来事を話すと、電話口からとても喜んでくれた。
 菜花の十年越しの片想いを知っている雛乃としては、感慨深いものがあるようだ。


《今から結婚式のスピーチするのが楽しみだわ》
「雛乃がスピーチしてくれるの?」
《菜花の結婚式は絶対私がスピーチするって決めてたんだから》
「嬉しい。私も雛乃にお願いしたいって思ってたの」
《ということは、結婚の話も進んでるんだね?》
「一応年内にはって……」
《きゃ〜! おめでとう!》


 いつも冷静沈着な雛乃がこんなにテンションが高いのは珍しい。
 それだけ喜んでくれているということなのだろう。

 菜花の誕生日にプロポーズするつもりだったと打ち明けられた時は、とても驚いた。
 紅真なりに決心して準備してくれていたのに、まさか婚約破棄を言い渡されるとは思っていなかっただろう。
 後から聞いて申し訳なく思った。

「でもああ言われてなかったら、菜花の気持ちも気付けないままだった。今では良かったと思ってるよ」

 そう言って紅真は抱きしめてくれた。
 思えば沢山すれ違って遠回りをしていたように思う。

 色々すっ飛ばして婚約から始まった二人は、ようやく恋人同士となった。
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