婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 これから千寿流の大きな展示会が開かれるため、それが終わったら正式に結婚発表することになっていた。
 紅真は毎日忙しくしているが、菜花との時間をなるべく作ろうとしてくれた。

 菜花は繁忙期が過ぎたところで、少し余裕が出てきたところだ。


(何か紅真くんの手伝いになれることないかな……?)


 そもそも就職先に赤瀬花きを選んだのは、昔から千寿華道会と縁の深いこの会社なら、花の知識を深められるし紅真を支えられると思ったからだ。
 家元の妻として恥じない女性になりたかった。

 仕事を通じて花の知識はついたけれど、生け花そのものに詳しいわけではない。
 展示会場へ行っても大して力になれない。

 どうしようかと悩んだ末に、とりあえず差し入れをすることにした。
 差し入れに選んだのは、「はるみ」で茶菓子としても出されている和菓子屋「苺庵」で一番人気の苺大福だ。

 これならば外れではないだろうと思い、特別に百個用意してもらった。
 スタッフの分も含めてみんなで食べてもらいたかった。

 土曜日、紅真は朝から展示会準備に出かけている。
 菜花はお昼頃に苺大福百個を抱えて会場に向かった。
 流石に抱えて会場には行けないので、車で送ってもらった。


「わあ、すごい……」


 会場には既に沢山の生け花が飾られている。
 かなり大規模な展示会だけあり、展示される花はどれも見事なものだ。

< 94 / 153 >

この作品をシェア

pagetop