婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 準備中のためまだまだ未完成の作品ばかりであり、今正に生けている真っ最中の作品もある。
 どれも素晴らしいな、でもお邪魔になりそうだなと気後れてしてしまう。

 紅真には何も伝えず来てしまったし、差し入れだけ預けて帰ろうとした。


「菜花ちゃん!?」


 名前を呼ばれて振り返ると、蘭だった。


「蘭ちゃん!」
「どうしたの!? 兄さんに用だった?」


 蘭が来てくれたことで少し安心感を覚えた。


「大した用はないんだけど、差し入れを持ってきたの」
「えっ、苺庵の苺大福じゃない! 私これ大好き!」
「良かった」


 これにしようと思ったのは、蘭が好きだったと思い出したこともある。


「良かったら皆さんで召し上がってね」
「えー、ありがとう! みんな喜ぶと思うわ!」
「良かった、それじゃあ私は帰るね」
「えっ、兄さんに会って行かないの?」
「だって忙しいのに邪魔しちゃ悪いし……」
「婚約者が何言ってるの? ほら、こっち」
「ちょっと蘭ちゃん……!」


 蘭にグイグイ引っ張られ、準備中の会場内を横切ってゆく。
 家元の娘で自身も有名な華道家である蘭は、ただそこにいるだけでとても目立つ。

 次期家元にはならなかったけれど、その実力は紅真に引けを取らない。
 蘭の大胆な発想から生まれる生け花は、型にハマらない自由奔放さがある。

 そんな蘭と一緒にいる者は誰なのかと、皆が好奇の目を向けていた。
 菜花は、やはり自分は場違いだと縮こまる思いで蘭に引っ張られていた。
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