婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。
控室のような部屋に連れて行かれ、中に入った途端紅真は菜花を抱きしめる。
「ごめん、あんな言われ方するのが嫌だろうと思って今まで黙ってたんだけど」
「私のために今まで黙っててくれたの?」
「うん、色々面倒だから婚約者がいることは公言してたけど。でも、そろそろ言わないとなと思って」
「嬉しかった」
菜花もぎゅうっと紅真を抱きしめ返す。
「本当はずっと言いたかった。菜花は僕のものだって」
くいっと顎を持ち上げられ、紅真の薄茶のガラス玉みたいな瞳が菜花を捉える。
熱を帯びた視線を向けられたら、もう逃げられない。
「んっ……」
ねっとりと唾液を絡めとるように、何度も舌で口腔を掻き乱される。
角度を変えて何度も口付けられる度、頭の中がぼうっとなって紅真のことしか考えられなくなる。
唇が離れ、とろんと蕩けた瞳で見つめる菜花を紅真はぎゅっと抱きすくめる。
「かわいい」
「紅真くん……っ」
「このまま連れ去りたい」
どこへ? と思いながら紅真の背中に腕を回す。
「行かなくていいの?」
「もうちょっとだけ」
まるで猫のようにぎゅうぎゅう抱きしめ、甘えてくる紅真がかわいくてキュンとした。
こんな一面を知っているのは自分だけがいい。
「そろそろ行かないと蘭がうるさいな……」
「うん、行ってあげて」
「ありがとう、菜花。来てくれて嬉しかった」
「ううん、私なんて何もできないけど」
「僕のやる気に火がついたよ」
そう言ってちゅっと頬にキスが落とされる。
「――続きは夜にしよう」