冷徹騎士団長が媚薬を盛られて大変なことになった話
本編
帝宮内にある医務室のドアが勢いよく開くと同時、切羽詰まった声が飛び込んできた。
「助けてください! マクリーン団長が薬を盛られました!」
デスクに向かい備品の発注リストをつけていたユリハは、ハッとそちらに意識を向ける。
開け放たれたドアの前、帝国騎士団の紺青の制服を着た若い男性ふたりがぐったりとした同じ団服姿の男性を抱え、縋るような眼差しをユリハに向けている。
ふたつに結わえたストロベリーブロンドの三つ編みを揺らし、彼女はすぐに立ち上がった。
「薬? 毒ですか? 形状はどのような? どんな症状が出ました? 服毒からの経過時間は?」
傍らの騎士たちへ、努めて冷静に質問を投げかける。
今はちょうど昼時で、医官たちが交代で休憩を取っている時間帯。
そのうえ急な皇族の呼び出しに応じている医師もいるため、現在医務室内にはユリハひとりきりである。
が、ユリハは十六のときから六年間この帝宮で看護師として従事しているベテランだ。
他の女性医官のような愛想はなくとも、清く正しく、日々真面目に粛々と業務に勤しんできた自負がある。
ここにいるのが自分ひとりだろうが、このひとを、なんとしてでも助けるのだ。
冷たいようでいて熱い炎が、ユリハの胸をひそかに燃やしていた。
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